公立大学法人 県立広島大学 生命環境学部 環境科学科

青蛹、究室(循環炭素資源利用化学研究室)

 

 

研究内容の紹介(専門的内容)

 

【研究の概要と背景】

 

植物(リグノセルロース)の炭素循環から,光合成を起点とした炭素循環を学び,構成高分子物質(リグニン,セルロース,ヘミセルロース等)の化学的利用を目指しています。森林資源・植物資源が豊富な土地柄ですので,まずは近隣にある植物資源を対象に,その化学的価値を検討しています。

 

研究領域としては「化学」「光化学」「物理化学」「高分子化学」「植物化学」ですが「おもろい」と感じたこと(ほとんどが対話で生まれますが)を「化学的に」アプローチして考える,というスタンスがほとんどです。従って,他の領域とのコラボレーションを行う機会が多いです。

所属学会は「高分子学会」「日本化学会」「アメリカ化学会」「繊維学会」「日本MRS」「日本木材学会」です。

研究の主な流れとしては,対象となる植物について調べ,植物資源を獲得し,前処理を行い,各成分を化学的に分離し,化学構造を把握して,新しい素材を誘導し,その得られた新物質の特性を化学的/物理的に評価します。

 

これまで前職(三重大学生物資源・舩岡研究室)では,高度循環型リグニン誘導体を用いた太陽電池や,導電性高分子複合体(電気を流すプラスチック素材),古紙パルプ+リグニン成型複合体(「人工木材(りぐぱる)」成型体),石油系プラスチック(ポリカーボネート,ポリエチレン,ポリプロピレンなど)との複合と高機能性付与などを行い,多くの学会発表,論文発表,特許申請ならびに企業様との共同研究などを行ってきました(→詳細はこちら)。

 

 

【研究の方向性と現在の流れ(20162月現在)】

植物化学(林業・木材工業・農業)と化学工業をつなぐ研究を心がけていきます。植物構成高分子を原料に,文化的な生活に貢献する高付加価値材料の開発を目指します。たとえば50年後,炭素資源の供給ルートに変化が生じたときに,国内に豊富に存在する循環型炭素資源を用いて文化的生活を維持するのに必要な物品の素材につながるような広い視点で取り組んでいます。

そのために,植物の非生命・非食部位の化学組成と資源循環に関わる化学構造について理解し,成分分離を行い,循環炭素を固体として利用する方法の開発を目指します。光合成によって固定化された炭素をなるべく固体のまま,物質として利用する方法を検討していきます。積極的に「固体」素材として活用することで森林の炭素循環に適合したものづくりのありかたと可能性を広い視野で検討していきます。

現在は,庄原市周辺の植物バイオマスの化学的活用可能性の評価と,特に芳香族高分子であるリグニンならびにその誘導体の縮合構造(芳香環同士の結合),共役系に注目した新機能探索と構造解析を行っています。

 

 

【研究テーマのタイトル】

1.光励起電子/エネルギー移動を活用したリグニンの縮合構造の解明

(科学研究費補助金/基盤研究C, H26-H28

2.庄原キャンパス周辺の自生草本類の資源評価と成分高分子の応用

(県立広島大学H26年度地域重点研究採択課題)

(A)    種々の植物資源成分の活用(草本類のセルロースの特性利用)

(B)     CM化誘導体による資源化・素材化検討

3.フェノール性リグニン誘導体高分子物質の高分子特性の解析

4.リグニンの光照射による構造・物性制御

5.未利用循環型炭素資源の有効利用に関する研究

6.リグニンと水溶性分子間の相互作用の基礎的解析

7.備北地区の植物資源の活用(重点・学長PJH27-H29

8.三次産ウルシ品種の化学的・生物学的研究(重点・地域課題解決・青蛛^菅)

9.三瓶小豆原埋没林(島根県)の3500年前の埋没スギの解析(時間と物質)

 

 

これまでの研究内容紹介(※論文・特許で公開完了の内容)

 

これまでの研究の経歴は大きく分けて5つに分類できます。いずれ物理化学・有機化学に立脚した研究を進めてきました。近年は木質バイオマスを研究対象とし,高分子化学,木材・植物化学に基づいて資源循環,材料化,有効活用を主軸とした研究活動を行ってきました。木質バイオマス(リグノセルロース)中の天然リグニンから舩岡法(相分離系変換システム)によって常温・常圧下,構造選択的かつ定量的に誘導されたフェノール性リグニン系高分子(リグノフェノール,LP)の設計と合成,物性の解析ならびに応用に関わる4項目:(A)電子伝達系の活用,(B)相互作用/ミクロフィブリル高次構造の活用,(C)熱的物性解析ならびに熱的応答,(D)新規LP高分子誘導体の合成と評価に関する研究です。

 

前所属の三重大学大学院生物資源学研究科では舩岡正光教授のもとで木質バイオマスの常温・常圧下,フェノール類/酸の二相分離系における定量的な成分分離(相分離系変換システム)を行い,各成分の構造解析と物性評価による新機能探究を行ってきました。導入フェノール種,樹種,反応条件を選択して化学構造を制御し,その物性との相関を評価してきました。本法によるシステムプラントによる実証研究に参画し,植物資源の有効活用に現場レベルで取り組んだ経験を有しています。

以上のように,植物資源を対象に高分子化学,物理化学,有機化学,植物化学の融合領域を扱い,その成果に基づいた農林産業との連携研究を行ってきました。また,それ以前にはアミノ酸合成や生体由来糖鎖と金属酸化物半導体との反応や固相重合特性を活用した化学構造と機能の制御に関する研究を行っています。

 

 

1)アミノ酸合成・酵素活性模倣材料調製・コロイド評価,商品開発研究等

大学の卒業研究では酸化チタン(TiO2)光触媒によるアミノ酸の光学選択的反応の研究を通じてTiO2,酸化物半導体,光触媒,光照射,白金担持,アミノ酸合成,速度論的解析,光学異性体の扱いを学び(大谷文章助手のご指導),大学院では生体由来糖被覆酸化鉄ナノコロイドの反応を扱い,共沈法,ナノ粒子と天然高分子の複合化,コロイドの扱い,酵素の機能発現と光科学解析,速度論的解析,粒径分布評価,細胞実験等を経験しました(西本清一教授,佐藤弘子助手のご指導)。

コクヨ鰍ナは各種総合職業務に加え,ポリアセチレン類縁体を発色剤とした透過放射線による積層印刷法の開発や可視光応答光触媒による自動浄化商材,生分解性樹脂の成型法探索,ルイス酸による木材流動化等を検討してきました。

 

 

2)電子伝達系の活用【光化学太陽電池,導電性高分子複合体,酸化チタン複合体】

一般に植物中の天然リグニンは単離過程で高度にランダム縮合し化学活性を失います。それに対し相分離系変換システムでは常温・常圧・短時間で,加水分解された炭水化物と1,1-diaryl構造を高頻度に有するリグニン系アリールエーテル型高分子物質「リグノフェノール類(LP)」に定量的に分離されます。LPは分子中の共役系が主鎖により分断され局在化した絶縁体であることを確認しました。LP構造と分散した電子軌道の特性を分光分析(1H-NMR, FT-IR, FT-Raman, UV-Vis, FL)により解析し,コロイド解析手法(光散乱,SEC),結晶化度評価(XRD),電気化学分析(CV, pKa評価)等によりLP構造と励起/緩和過程との相関を検討しました。さらにLPがナノ粒子TiO2と特異的に複合体を形成し,光励起電子移動が生じることを見出し,TiO2薄膜/LP電極による光増感型太陽電池を調製しました。LPの誘導体を用いて可視光照射下,天然由来物質の性能としては高い光電変換効率3.6%を達成し,さらに多様な構造のLPを誘導し,常時1%を超える安定した変換効率が得られました。また,導電性高分子ポリアニリン(未ドープ導電率10-12 Scm-1)と溶液で混合して相互作用を形成させ導電性を向上させました(10-5 Scm-1)。

 

 

3LP高分子の相互作用/ミクロフィブリル高次構造の活用【成型体,吸着現象】

LPは豊富な水酸基,メトキシル基,芳香環を有し金属イオン類,有機分子や生体関連物質等に対し高い吸着性を示します。平面型色素による吸着特性評価の結果 Langmuir式に従い,溶媒変更による容易な脱離条件を見出しました(一部CT錯体を形成)。さらにTiO2複合体形成によるLP選択抽出法や,溶解度差に基づく分子量分画手法を見出しました。さらに古紙パルプの微細結晶制御により積層,傾斜構造を形成し,LPとの複合体を調製し強度や耐水性等,特性制御を実現しました。

 

 

4LP高分子の物性解析ならびに熱的応答【熱的性質,分子運動,ガラス転移,安定性】

LPは従来のリグニン系素材と異なり明確な熱流動を示します。構造解析と熱分析(TMATGADSCDMATG-GCMS)から,熱履歴による低分子/高分子化の同時進行やスチリルアリールエーテル構造の形成等による熱安定化のメカニズムを見出しました。また,LPのガラス転移現象を静的/動的な観点から比較し,その構造/物性相関の解析を行い,相互作用の評価と制御ならびに安定化に関する有益な知見を得ました。これらに基づきエステル化,アルカリ処理法による耐熱グレードLPを見出し,企業との共同研究を通じポリカーボネート,PP, PE等との複合材料等実用可能な複合体を開発しました。

 

 

5)新規LP高分子誘導体の合成と評価【LP誘導体合成,分子設計,ネットワーク化】

天然リグニンがLPに変換される反応は主にベンジル構造が基点となりフェノール類が導入されます。ベンジル水酸基をLP分子中に導入し反応基点としたフェノール類の逐次導入や反応速度差を利用した木材非浸透性の疎水フェノール導入法を見出し,それらのフェノール類の導入に成功しました。さらに同様の機構によるLPの高度循環型の網目高分子化や電子密度制御に適用可能な精密分子設計を行い,調製ならびに物性評価を行いました。

 

 

 

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最終更新日 Feb 9th 2016 Copyright© Mitsuru Aoyagi, Ph. D all right reserved