県立広島大学大学院 人間文化学専攻

言語文化・社会文化研究分野 言語文化研究分野
教授 柳川順子

Junko Yanagawa

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 私は最初から中国古典文学の研究者になろうと思っていたわけではありません。ふとこの世界の門を叩き、恩師の下、諸先輩方とともに、中国古典語で書かれた文献の読み方と、原典に立脚した自由な研究姿勢を学びました。当時わけもわからないまま読んだ『文選』は、その後の研究を土台から支えてくれました。目的に向かってシステマチックに学修するのではないこうした学びのあり方は、一見とても迂遠なように感じられるかもしれません。けれど、自分にとっては最良の恵みを与えられたと、後から振り返って思います。
 古典文学は、すぐに世の中に役立つものではありません。けれども、遠い過去の人々の声に耳を傾けていると、現代を生きる自分を相対化して見ることができるようになります。そういう視点を持った人が一人でも多くなるといい。そんな思いから、たとえば、思考の基盤たる「国語」の教育を志す人には、中国古典を深く学んでほしいと願います。

研究テーマ研究テーマ

 考察の対象としては、中国の古代から中世にかけての文学、西暦で言えば紀元前2世紀から紀元後9世紀頃にあたる、漢魏六朝から隋唐に至る時代の文学を視野に入れていますが、最近着手したのは、画像石を媒介とした漢代語り物文芸の復元という研究テーマです。漢代の墓の内壁には、天上界や地上の様々な事物を彫りこんだ石板がちりばめられており、このいわゆる画像石の一角に、よく宴席風景と隣接して現れるのが歴史故事の名場面です。このような場所にこのような絵が描かれたのはどういうわけでしょうか。墓壁内における図像相互の位置関係に加えて、この種の故事を書き記す文献の文体的特徴、さらに、漢魏六朝時代の詠史詩や後世の口語的文芸と漢代画像石に描かれた歴史故事との関係、等々の視点からこの謎を解明しつつ、その先に、漢代の宴席で行われていた語り物文芸の復元を構想しているところです。そうした文芸の存在そのものから検証します。
 これに先立って取り組んでいたのは、漢代五言詩歌史の研究です。古詩と呼ばれる漢代詠み人知らずの五言詩を中心に、五言という詩型が、前漢の後宮の女性たちの間で生まれ、知識人の文学として定着するに至った経緯を明らかにしました。これは、五言詩の成立を後漢末とする従来の定説とは異なる見方です。この研究の過程で注目するようになったのが宴席という場であり、現在の研究テーマはこのことへの着目から派生しました。
 このほか、縁あって『白氏文集』の訳注に携わり、日本の人々に広く愛された唐代の詩人白居易の作品も、授業等を通して長らく読み続けています。ここから、中国古典と日本文学との関係性にも興味を持つようになりました。なお、白居易ら唐代の詩人たちが必須教養として読んでいたのが『文選』であり、六朝末に編まれたこの文学選集の中に、先に言及した古詩や詠史詩も収録されています。

message研究業績

  • 漢代画像石と語り物文芸、『中国文学論集』43、2014年
  • 「厳島八景」文芸と柏村直條、『宮島学』渓水社、2014年
  • 『漢代五言詩歌史の研究』創文社、2013年
  • 曹植「贈丁儀」詩小考、『林田慎之助先生傘寿記念三国志論集』汲古書院、2012年
  • 白居易の「序洛詩」と『文集』六十巻―編み直された隠棲意識とその背景―、『中国文史論叢』8、2012年
  • 五言詩における文学的萌芽―建安詩人たちの個人的抒情詩を手掛かりに―、『中国文化』69、2011年
  • 貴族制の萌芽と建安文壇、『魏晋南北朝における貴族制の形成と三教・文学』汲古書院、2011年
  • 漢代古詩と古楽府との関係、『日本中国学会報』62、2010年
  • 舞楽「抜頭」の渡来経路について、『厳島研究』5、2009年
  • 曹操楽府詩私論、『狩野直禎先生傘寿記念三国志論集』汲古書院、2008年
  • 漢代五言詩歌と死後の世界、『中国文学論集』36、2007年
  • 『白氏文集 二下(新釈漢文大系)』明治書院、2007年、共著者;岡村繁
  • 大江千里における「句題和歌」制作の意図、『広島女子大学国際文化学部紀要』13、2005年
  • 魏朝における「相和」「清商三調」の違いについて、『九州中国学会報』41、2003年
  • 民国時代における五言古詩の研究―その成立年代を巡る論争を中心に―、『広島女子大学国際文化学部紀要』10、2002年
  • 陸機擬する所の古詩について、『中国文学論集』28、1999年
  • 『白氏六帖』炭門考、『広島女子大学国際文化学部紀要』3、1997年
  • 虞世南における『北堂書鈔』編纂の意図とその文学史的意義、『東方学』90、1995年
  • 陸機「擬古詩」試論、『筑紫女学園大学国際文化研究所論叢』2、1991年
  • 阮籍「獼猴賦」試論、『日本中国学会報』38、1986年

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