県立広島大学大学院 人間文化学専攻

言語文化・社会文化研究分野 言語文化研究分野
准教授 小川俊輔

Shunsuke Ogawa

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小川 俊輔

 私は大学入学後すぐ合唱部に入りました。初めて参加した練習で歌ったのがW.A.モーツアルト作曲Litaniae Lauretanaeの第1曲Kyrieでした。翌年,先輩指揮者が定期演奏会の為に選んだのが北原白秋作詩・木下牧子作曲の『邪宗門秘曲』でした。明くる年,私は公募合唱団に参加し,柴田南雄作曲『宇宙について』を歌いました。縁というのは不思議なもので,Kyrie・『邪宗門秘曲』・『宇宙について』はすべて現在の私の研究に一本の線で繋がっています。というのも『宇宙について』には,長崎の離島のカクレキリシタンたちが昭和時代まで伝えたラテン語の(訛った)祈りをテキストにした一章があり,『邪宗門秘曲』はカクレキリシタンを題材にラテン語やポルトガル語を散りばめて書かれた詩であり,Kyrieは16世紀のキリシタンが宣教師から習い,歌っていたものだったのです。大学院進学後,すぐに「キリスト教用語の受容史」というテーマを選び,現在に至っているのは,以上のような合唱・合唱曲との出会いがあったからなのです。

研究テーマ研究テーマ

現在の研究

1.キリスト教用語の歴史

 聖ザビエルの来日(1549年)を端緒とするキリシタンの伝来により,16世紀中葉以降,西洋から数多くの言葉が輸入されることになりました。その多くはラテン語とポルトガル語でした。今日でも耳にする「キリシタン」「バテレン」「クルス」「スピリチュアル」などの語は,16世紀から使われてきた言葉です。私はこれらの語の歴史について,現地調査と文献史料調査に基づいて考察してきました。

2.渡来語の受容史

 キリスト教用語とともに,「パン」「ビードロ」「金平糖」「カステラ」「カッパ」などの一般の語も,たくさん日本に入ってきました。これらの語は普通「外来語」と呼ばれますが,特に,16・17世紀にキリシタンの伝来に伴って輸入されたポルトガル語・スペイン語を「渡来語」と名付け,その受容史を明らかにしたいと考えています。

今後進めていきたい研究

1.キリスト教用語の一般語化

 「天国」「救世主」「三位一体」などの語は,明治時代にはキリスト教会内部でのみ使われていました。しかし,最近ではこれらが一般語として使われるようになってきています。その契機や理由,伝播の過程などについて,今後,研究したいと思っています。

2.炭鉱労働者・移民の言語生活史

 禁教時代に厳しい生活を余儀なくされたキリシタンの人々は,江戸時代末期以降,新天地を求めて移住を繰り返し,あるときには国内開拓移民として,またあるときには,炭鉱労働者として,また,一部の人々は海外に移民として渡っていきました。彼らが,いかにしてキリスト教信仰を守り,キリスト教用語を伝えてきたのかについて,少しずつ調査・研究を進めています。キリスト教用語・渡来語の記述にとどまらず,血の滲むような努力をされて今日を迎えられた偉大な先人たちの言語生活史を書き残す仕事ができればと思っています。

3.キリシタン文学の水脈

 北原白秋・木下杢太郎の「南蛮趣味文学」,芥川龍之介の「切支丹物」,遠藤周作『沈黙』など,連綿と書き継がれてきたキリシタン文学の水脈をたどる仕事も,課題の1つです。

message研究業績

  • キリシタン文化と方言形成―Jesusの歴史社会地理言語学―,小川俊輔,小林隆編『柳田方言学の現代的意義―あいさつ表現と方言形成論―』所収,ひつじ書房,ISBN:978-4-89476-719-5,pp.265-290,2014年07月.
  • 南米に移住した長崎のキリシタン家族 ―ボリビア多民族国サンフアン日本人移住地の事例―,小川俊輔,『キリスト教史学』67,pp.134-156,2013年07月.
  • 長崎・天草におけるキリシタン語彙の継承と変容,小川俊輔,長崎県世界遺産登録推進室編『長崎県内の多様な集落が形成する文化的景観保存調査報告書【論文編】(長崎県文化財調査報告書 第210集)』,pp.428-449,2013年3月.
  • 大学の一般教養科目としての「日本文学」 ―大人数授業の実践報告―,小川俊輔,『広島経済大学研究論集』35(4),pp.79-98,2013年3月.
  • キリシタン語彙の歴史社会地理言語学 ―oratioオラショを例にして―,小川俊輔,陣内正敬・田中牧郎・相澤正夫編『外来語研究の新展開』所収,おうふう,ISBN:978-4-273-03698-0,pp.78-96,2012年10月.
  • 九州地方におけるキリシタン語彙の受容史,小川俊輔,大石一久編『日本キリシタン墓碑総覧』所収,長崎文献社,ISBN:978-4-88851-182-7,pp.455-464,2012年4月.
  • 九州地方における「天国」の受容史―宗教差,地域差,場面差―,小川俊輔,『日本語の研究』8(2) pp.1-14,2012年4月.
  • 日本社会の変容とキリスト教用語,小川俊輔,『社会言語科学』13(2),pp.4-19,2011年3月.
  • On the decay, preservation and restoration of imported Portuguese Christian missionary vocabulary in the Kyushu district of Japan since the 16th century,OGAWA Shunsuke,『Slavia Centralis』Ⅲ(1),pp.150-161,2010年7月.
  • A Geolinguistic Study on the History of Reception of 'CONTAS' and 'ROSARIO' in the Kyushu District of Japan After the 16th Century,OGAWA Shunsuke,『Dialectologia』vol.4,pp.83-106,2010年2月.
  • 九州地方域方言におけるキリシタン語彙Santa Mariaの受容史についての地理言語学的研究,小川俊輔,『国語教育研究』48,pp.38-51,2007年3月.
  • 九州地方域方言におけるキリシタン語彙pater/padreの受容史についての地理言語学的研究,小川俊輔,『国文学攷』192・193合併号,pp.15-25,2007年3月.
  • 九州地方域方言におけるキリシタン語彙Christãoの受容史についての地理言語学的研究,小川俊輔,『広島大学大学院教育学研究科紀要』55(第Ⅱ部),pp.173-182,2007年3月.
  • 九州西北部地域における中世キリシタン語彙項目「死後の世界」についての地理言語学的研究,小川俊輔,Guido Oebelほか編『Japanische Beiträge zu Kultur und Sprache Studia Iaponica Wolfgango Viereck emerito oblata』所収,Lincom Europa,ISBN:3-89586-376-9,pp.152-168,2006年11月.
  • A Geolinguistic Study on the History of Acceptance of the Christian Vocabulary in the Northwestern Area of the Kyushu District of Japan,OGAWA Shunsuke,『Dialectologia et Geolinguistica』 vol.13,pp.108-123,2006年4月.
  • 福岡県北九州市小倉北区方言の立ち上げ詞,小川俊輔,『方言資料叢刊 第9巻 日本語方言立ち上げ詞の研究』,pp.172-178,2006年3月.
  • 『生活語学研究会報告集1 方言学のフィールド』pp.1-154,小川俊輔 (担当:共編者),生活語学研究会,2012年5月.
  • 『長崎県言語地図』,pp.1-168,小川俊輔,私家版,2005年1月.

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