ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 生物資源科学部 > 【生命科学コース】生体防御学研究室の論文がArchives of Biochemistry and Biophysicsに掲載されました

本文

【生命科学コース】生体防御学研究室の論文がArchives of Biochemistry and Biophysicsに掲載されました

印刷用ページを表示する 2022年9月15日更新

卒業生の木下君の論文が、Archives of Biochemistry and Biophysicsに掲載されました(生体防御学研究室: 稲垣教授)。

Augmented leptin-induced trefoil factor 3 expression and epidermal growth factor receptor transactivation differentially influences neoplasia progression in the stomach and colorectum of dietary fat-induced obese mice. 

Yuta Kinoshita, Seiya Arita, Takumi Ogawa, Ayane Takenouchi, and Kyoko Inagaki-Ohara. Archives of Biochemistry and Biophysics 729:109379, 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36002083/

 肥満になると様々ながんに罹りやすいことが知られています。中でも胃がん、大腸がん、食道がんなどの消化器がんは、がん死亡原因の約30%を占めるほどです。しかし、その原因はわかっていません。これまで私達の研究室では、高脂肪食を摂ると、胃粘膜で胃酸産生細胞が著しく減少し、腸粘膜のように変化して胃がんの前段階(『前がん』)になることを報告してきました。しかし、「高脂肪食を食べると胃はこんなに早く前がんになるけれど、同じ消化管の大腸にはどんな影響があるの?」と思ったのが、この研究を始めるきっかけでした。そこで、木下君は卒論で、「高脂肪食摂取による大腸粘膜の変化」というテーマに取り組みました。マウスに高脂肪食を与えた時の胃と大腸の変化を比較した結果、以下の新しいことがわかりました。

1)胃粘膜と比べ大腸粘膜では前がん状態になるのがかなり遅れる(図1)。

2) 大腸粘膜は胃粘膜と同じようにレプチンが増えるが、大腸粘膜はレプチン受容体(LepR)からのシグナル伝達が弱い。

3)  腸管粘膜の防御に必要なトレフォイルファクター3(TFF3)が、本来ほとんど発現のない胃で異常に増加した(図2)。 TFF3の受容体はこれまではっきりわかっていません。しかし、私たちは、「もしかしてTFF3の受容体は上皮成長因子受容体 (EGFR)ではないかと仮説を立てました。

 

論文図1
図改訂

4) EGFRの活性化は胃の方が大腸より強かった。

5) 消化管でLepRを欠損させた遺伝子改変マウス(T3b-LepRcKO)では、胃での前がん状態は完全に抑制された(図3)。

論文図3

ここまでマウスを用いた実験ですが、LepRとEGFRの活性化の関係、そしてそれらのシグナルがどのようにTFF3の発現に影響しているのかを細胞株COS-7を用い、LepRとEGFRの遺伝子導入を行いました。

6)レプチンによりLepRが活性化するとEGFRもトランス活性化され、Tff3の発現の上昇を促した。EGFRがTFF3の受容体であることが示されたが、EGFRにTFF3が結合してもLepRは活性化しなかった(図4)。TFF3の発現には、これら2種類の受容体の下流で共通シグナル分子、特にPI3K-Akt経路の活性化が重要であることが阻害剤実験で示された (図5)。

論文図4
論文図5

  これらの結果から、同じ消化管でも高脂肪食に対して胃と大腸では、感受性が異なること、それはレプチンシグナルに依存すること、さらにレプチンシグナルの活性化は、EGFRシグナルも刺激し、元来胃には存在しないTFF3の発現を促進し、がんの発生に向かわせることがわかりました。これまで世界中の研究のほとんどが、完全な肥満のマウス(あるいは人)を用い、遺伝子やタンパク、免疫機能の変化を調べた内容でした。特に大腸に関しては、遺伝子改変マウスや、マウスに大腸がんを起こさせる処理をした上で9〜14ヶ月高脂肪食を摂取させるなど(Beyaz., Nature, 2016)、かなり私たちの日常生活とは異なる条件でのマウスモデル実験です。しかし、私たちは普段の食生活を反映した実験系を用い、正常から前がんまでの過程を調べています。木下君は、正常マウスに高脂肪食を与えただけで大腸粘膜で3か月目から炎症を起こす浸潤細胞が増加すること、5か月目では大腸粘膜細胞の異常な増殖を見つけました。とはいえ、それまで有田君が胃粘膜の解析を進めていて、胃では1〜3週間摂取で胃粘膜細胞の形態・性質が変化し始めるのに対し、大腸細胞では異常が出始めるのに3か月以上はかかります。今回、同じマウスの胃と大腸を比較することで、レプチン–LepR–EGF-PI3K経路軸の活性化が、胃は大腸より強いことがわかりました。

  消化管を構成する胃(消化)と大腸(水分吸収)の生理的な働きの違いは、教科書にも書かれています。しかし、今回の高脂肪食に対する感受性、がんに向かっていく変化の速さや仕方が全く違うことがわかりました。これらの成果は、胃と大腸の生物学的意義の差だけでなく、今後、消化器がんの標的となる創薬研究にも役立つと考えられます。

まとめの図

本研究は、生命科学科生体防御学研究室の木下裕太さんの卒論データ、有田晟哉さんの未発表データを合体させ、小川拓実さん、竹之内彩音さん(いずれも卒業生)が在学中に精力的に補強してくれ、その成果が今回の発表へと繋りました。


さらに詳しく知りたい人はこちら

 

生命科学コースHP

大学院生命システム科学専攻HP