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【生命科学科】 稲垣教授の論文が、Nutritionに掲載されました。

印刷用ページを表示する 2019年10月30日更新

稲垣教授の論文が、Nutritionに掲載されました。

Arita S., Inagaki-Ohara K.

High-fat-diet-induced modulations of leptin signaling and gastric microbiota drive precancerous lesions in the stomach. Nutrition 67-68:110556, 2019

【概要】

  私たちの腸管には、体細胞数をはるかに超える100兆個以上とも推定される腸内細菌が存在します。肥満になると腸内細菌の数が著しく増加・減少したり、構成が変化するdysbiosis(ディスバイオーシス)が起こり、dysbiosisが様々な炎症やがんの発生に重要だと考えられています。一方、胃の中にも細菌はいます。しかし胃内細菌叢については、どのような菌叢なのか、また胃の病気の時にどのように胃内細菌が変化するか、ほとんどわかっていませんでした。稲垣教授は、肥満による胃がん発生のメカニズム解明に取り組んでおり、これまでにラードの高脂肪食を与えたマウスの胃粘膜が、腸粘膜のように変化してしまう腸上皮化生(胃の前がん病変の一種)を起こすこと、この病態の発生には胃レプチンシグナルが強く関わることを報告してきました。本研究では、腸上皮化生発生に関わる胃内細菌叢の変化に着目しました。

その結果、新たにわかったことが4点あります。

1)   胃内細菌の数・種類は、腸内細菌と類似していること(図1、2)。

2)   高脂肪食摂取後極めて早期で、まだ完全な肥満になっていないのにLactobacillus属を

   優占とするdysbiosisが起こったこと(図1、2)。

3)    高脂肪食を食べたマウスの胃内細菌を正常マウスに移植すると、腸上皮化生を起こし

    たこと(図3)。

4)    消化管でレプチンシグナルを遮断したマウス(胃レプチンが働かないマウス)では、肥満

    になってもdysbiosisが起こらず、腸上皮化生も抑制されること(図4)。

   これらの結果から、高脂肪食摂取による腸上皮化生発生には、肥満や胃内細菌叢のdysbiosisという要因だけでなく、胃レプチンシグナルが一緒に働くのが重要であることがわかりました。これまで、肥満が消化管細菌叢の構成を変えると考えられてきましたが、本研究は、肥満とdysbiosisは独立した現象であり、それらを制御するのが胃レプチンである可能性が考えられます。胃レプチンが胃粘膜細胞だけでなく、細菌叢も含め胃内環境変化に重要な働きをすることがわかりました。

  本研究は、今年大学院を修了した有田晟哉君の修士論文の内容です。

Fig1
arita-inagakiFig2

2. 消化管で主要な12種類の細菌群の変化。16S rRNA遺伝子を標的とした菌群・菌種特 

 異的プライマーを用いた定量的PCRを行った。HFD群で消化管細菌数が著減する。

arita-inagakiFig3

図3. 高脂肪食摂取マウスの胃内容物を経口的にレシピエントマウスに移植すると、レシピエントマウスで腸上皮化生が発生する。受容マウス胃粘膜のPAS-Alcian blue染色像。正常マウスの胃粘膜に腸型の酸性糖鎖(青点線囲い)が発現している。

Fig4
図4. 消化管上皮細胞特異的レプチン受容体欠損マウスでは、dysbiosisと腸上皮化生は抑制される。(A) T3b-LeprLepr conditional knockoutマウスの作製方法。T3bプロモーターを用いたT3b-Cre Tgマウスとレプチン受容体floxマウスを交配させた(Cre-LoxPシステム)。 (B)実験食3週間摂取時の細菌叢(qPCR), C)実験食8週間摂取時のAlcian blue染色像。コントロールマウスでは高脂肪食摂取で、腸型の酸性糖鎖が強く発現しているが、cKOマウスではほとんど検出されない。CNT: コントロールマウス、cKO:T3b-LeprLepr conditional knockoutマウス