県立広島大学・人間文化学部・健康科学科運動生理学研究室同・大学院総合学術研究科・人間文化学専攻・健康管理科学研究分野

Department of Exercise Science and Physiology
School of Health Sciences
Prefectural University of Hiroshima

研究内容

運動時の全身的な循環機能調節メカニズムの解明

運動時の身体の巧みな調節機構の一つとして,運動に参画している骨格筋(活動筋)への酸素の効果的な配分があげられる。外呼吸(肺でのO2の積込み)-中心ならびに末梢循環(心拍出量ならびに筋血流によるO2の運搬[O2-delivery])-活動筋での代謝(筋細胞へのO2の積み下ろし,ならびにミトコンドリアでのO2消費)という統合的連関[O2-cascadeと呼ばれる]があってはじめて実現される所業であり,その全容解明にむけて,これまでに多くの研究がなされてきた。我々は,その中で,全身的な循環調節機構を明らかにする目的で,特に,活動筋へのO2-deliveryに直接関与しない,活動筋以外の部位・臓器・組織への末梢循環にフォーカスをあてて研究を進めてきている。その理由は,O2-deliveryを支える筋血流は,動脈血圧(MAP)が駆動圧であるが,MAP自体は,中心循環側の心拍出量(CO)だけでなく,末梢の血液流入先である,あらゆる部位・臓器・組織の血管コンダクタンス(VC)の総和(TVC)によっても決まる(MAP=CO/TVC)からである[図を参照]。長年,本研究室で培ってきた血流測定手技で,一般的な下肢サイクリング運動中の運動肢,非運動肢,脳,内臓,皮膚などへの血流を測定し,活動筋への血流維持に果たすそのほかの末梢循環調節の役割を検討している。また,用いる運動負荷様式を一定負荷のステップ運動のみならず,サイン波状に変動する運動時の,各測定諸変量の追従性を比較検討することで,運動時の全身的な循環調節の包括的な理解をめざしている。

上・下肢運動時の呼吸循環調節応答

運動負荷試験やエアロビックトレーニングでは,一般的に,自転車エルゴメータによる下肢サイクリング運動がよく用いられるが,日常の身体活動や,球技系のスポーツ場面(例えば,バスケットボール,テニス),水泳,ボートなどを想起すると,下肢のみならず,上肢も同時に運動するような,「上・下肢」運動が,むしろ一般的であることに気づかされる。意外にも,実験的に,そのような上肢・下肢同時運動を模擬した研究は極めて少ない。そこで,このような実際場面に近い状況での基礎的研究テーマとして,我々は,上・下肢同時運動時のガス交換,心拍数,脳血流などの応答を測定し,上肢と下肢で筋血流が競合する際の呼吸循環調節メカニズムについて検討を始めている。現在,これらの発展的なテーマとして,上・下肢同時運動での負荷強度をサイン波状に変動させることで,より実践的なスポーツ場面の模擬する状況下での応答を検討や,トレーニング様式として下肢のエアロビック運動と同時に上肢のレジスタンス運動を行うことを,それぞれ単独で行うこととの類似性・特異性について検討,を開始している。これらによって,運動の抗動脈硬化作用に関する意義や運動時の脳血流調節とその意義,また運動様式として,上・下肢を同時に用いる運動様式の意義,などが明らかにできるものと期待している。

ヒト口腔内の味覚刺激が消化管運動と消化管血流に及ぼす影響

「食べ物を見て無意識に唾液が出てしまう」ことは誰もが経験する。これは視覚情報が引き金となって生じる消化活動の一つである。一般に,食べ物が嚥下され胃に到達する前,味覚を中心とした口腔内感覚・嗅覚・視覚など,種々な感覚刺激によって惹起される消化活動を「頭相」応答と呼ぶ。特に口腔内の味覚は最も大きな頭相応答を引き起こす感覚刺激とされ,過去にも多くの研究が行われており,一般に,食べ物を口に含み嚥下せず吐き出すという実験方法が用いられている。我々も同様の方法を用いて,甘味による頭相応答について,特に消化管血流や消化管運動に着目して研究を行っている。

発展的なテーマとして,食事摂取時(実際に食べ物を嚥下した時)の頭相応答の解明を目指し,その取り組みを開始している。具体的には,味を感じながら食べさせる条件とそうでない条件を人為的に設定し,その時の消化管血流と消化管運動を比較検討している。このような一連の研究を通じて,食事摂取時の消化吸収活動と摂食調節に果たす頭相応答の役割を明らかにしていきたいと考えている。

PAGE TOP

倫理委員会承認済み研究
承認番号 承認日 研究課題名 研究代表者
第 HH006号 平成27年12月17日 上・下肢同時運動時の呼吸循環調節応答 鍛島 秀明
第 HH007号 平成27年12月17日 運動後の栄養摂取のタイミングがその後の消化管活動に及ぼす影響 鍛島 秀明
第 HH008号 平成27年12月17日 口腔内の甘味刺激が消化管の運動と血流応答に果たす役割の解明 鍛島 秀明
第 HH009号 平成28年 3月 9日  サイン波状負荷を用いた上下肢同時運動時の呼吸循環系応答に関する研究 福場 良之