Research

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米村研究室は,大気環境科学を専門とする研究室です。 いろいろな現象のインターフェースになっている大気を科学します。 また,生命活動によるガス交換の重要性から,生態系での構成要素である土壌などの大気ガス成分の交換過程が重要です。 そのため本研究室は,様々な方向性へ向かって研究しています。 基礎研究のみならず,応用的な研究まで対象が広がっている研究室と言えます。



大気環境科学とは

土壌や植物,動物といった様々な環境の構成要素を“大気”の視点から科学する分野です。 もちろん,“大気”も環境に内包される要素です。あくまで,環境を捉える角度が“大気”であるということです

大気の成分組成は生命現象(土壌・植物・動物,もちろん人間活動も)との関わり合いにより決まります。 温室効果ガスをはじめとする様々な成分が大気には含まれますが, 「それら大気成分が環境の構成要素との間でどのように交換されているか?」といった切り口で研究を行っているのが米村研究室です。

air & ecosystem

“大気”と“環境”の関わり合いを科学するために,米村研究室の実験においては ガス交換量測定システムが主要な役割を担います。
この実験システムの強みは測定の自由度リアルタイム測定にあります。 測定の自由度は温度やガス濃度など測定環境のコントロール,測定対象とする大気成分を選択できるといった点に代表されます。 リアルタイム測定は文字通りですが,何かの変化(例えば温度上昇・水分上昇・ガス濃度)を加えたときの,サンプルの変化を捉えることができます。



Topic(1)窒素循環

窒素(N)は窒素分子(N2)やアンモニア(NH3),窒素酸化物(NOx),DNAなど様々な形で存在し,自然・人為的な環境をめぐりめぐっています。 自然界においては,細菌・ラン藻などの一部の微生物によって窒素分子は固定され,アンモニアや硝酸塩などの生物の利用できる形に変換されます。 利用可能な窒素は植物や動物の体の一部として固定されていきます。 やがて植物や動物が死すと,その遺骸が微生物の餌となり,固定されていた窒素は無機態窒素,窒素分子として戻っていきます。

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このような窒素循環は人間活動によって,乱されていると危惧されています。 その原因は,主に農業における窒肥料素の大量投入であるとされています。 この人為的な土壌への肥料投入は,人類の食料安全保障を支える一方で,次のような問題があります。

(1)一酸化窒素(N2O)による成層圏オゾンの破壊,および強力な温室効果
(2)陸域・海洋の生態系の富栄養化
(3)淡水の酸性化

このような社会的背景を鑑み,当研究室では(1)の一酸化窒素,および関連する含窒素ガスに関する研究を行っています。 対象とする土壌は主に,窒素肥料が特に多く施肥される茶園土壌,一酸化窒素の放出源である可能性が指摘されている水田土壌・森林土壌を用いています。 そのような土壌から放出される含窒素ガスを分析対象とし,ガス交換量測定システムを用いて実験を行います。 これらの結果は含窒素ガスの放出メカニズムを詳細に知るための大きなツールになります。 そのメカニズムが明らかになれば,温暖化の将来予測の精度向上,そして防止のための施策制定などに貢献することができます。



Topic(2)炭素循環

炭素(C)も窒素と同様に二酸化炭素(CO2),メタン(CH4),動物や植物の体を構成する有機化合物などとして自然界を循環しています。 光合成によって大気中のCO2は植物(細菌も)を構成する物質として固定されます。 植物は枯死した後に分解,もしくは草食動物などによって一部を消費されることでCO2やCH4として再び,大気へと舞い戻っていきます。

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これが産業革命以前の生態系を主とする炭素循環でしたが,産業革命後に化石燃料が使用され始めると,その様相は大きく変わります。 化石燃料として有名な石油・天然ガスは2億年以上前のプランクトンの遺骸,石炭は植物の遺骸が堆積して地中で地熱などの作用を受けて作られたものです。 石炭は石炭紀(3.6億年前)の植物が地中で炭化したものです。これら石油資源を人類の産業で大量に消費し,二酸化炭素として大気中に放出することで元来の炭素循環のバランスを崩しているのです。 ほとんどの科学者の間では,人類の活動が温暖化の原因であることは疑いようがないと共通認識されています。

このように人類の影響を受けて地球が温暖化している現在,CO2やCH4のバランスを考え,将来予測をすることは以下の理由から非常に重要です。

(1)具体的な温暖化対策を考えるため(人為的なCO2やCH4の削減目標の制定など)。
(2)長期的な地球の気候変動予測を正確に行うため。

ここで土壌にフォーカスしてみましょう。 地球全体で約2.9兆tもの有機炭素(植物に由来し,微生物の餌になる)が土壌に貯蔵されています。 森林や草地などの植生の植物には4500億t,大気には8700億tの炭素(C)があることと比較すると,土壌に貯蔵されている量がとても多いことがわかります。 温暖化によって土壌の微生物が元気になると,今まで貯められた有機炭素が分解され,CO2やCH4として大気に放出されると懸念されています。

このような背景から,当研究室では土壌の炭素循環に関する研究を行っています。 実験では様々な条件において,土壌から放出されるCO2やCH4を測定しています。 用いる土壌は熱帯から北極の土壌,農耕地から自然生態系のものまで,非常に多様です。 多様な条件でのCO2やCH4の放出量,その背景で駆動されるメカニズムの一部が明らかになれば, 窒素循環に関する研究と同様に,温暖化の将来予測の精度向上などに貢献すると期待されます。



Topic(3)気象

当研究室が位置する広島県庄原市そして,隣接する三次市は大規模な霧が発生しやすい地域です。 三次霧は「霧の海」として全国的に有名であり,観光資源にもなっています。 「霧の海」を目当てにする観光客としては霧の発生予報が気になるところですが,現在の霧の発生予測はあまりあたりません。 それは気象衛星(ひまわり)のデータを用いて行われている予報の,空間分解能が50km四方であるためです。 このような粗い情報では,ピンポイントの予報は困難そうだということは想像に難くないですね。

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そこで,当研究室では霧発生予測のための情報を得ることを究極的な目的として研究を行っています。 そのために日々,温度・湿度・風速・エネルギー収支など様々な環境パラメータを長期間測定しています(といっても測定自体はプログラムにより,自動的に実施されています)。 野外では観測機器の設置,点検,データの回収を行い,実験室ではデータ解析を行っています。

このような研究により,霧が発生するときの,具体的な条件などを明らかにすれば,正確な霧予測につながり,ひいては広島県北部の観光に大きく貢献することができると考えられます。