ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 生物資源科学部 > 最後のフィールド科学卒論発表会を学内オンラインで実施 1月25日 その2

本文

最後のフィールド科学卒論発表会を学内オンラインで実施 1月25日 その2

印刷用ページを表示する 2022年2月1日更新

最後のフィールド科学卒論発表会をオンラインで学内実施(2021年1月25日)その2

フィールド科学卒論発表会を1月25日に実施しました。このページはその2として公表します。

微細藻類の選定とP(3HB)産生能の評価 生命科学科 青島健人(西村・青柳研究室)

【背景・目的】近年プラスチックごみによる環境汚染は深刻化しており,その解決方法として生分解性プラスチックが注目されている.生分解性プラスチックの1種であるPHAのP(3HB)(ポリ(3-ヒドロキシブタン酸))は生育制限下の微生物により生合成され,特に光合成可能な独立栄養細菌のシアノバクテリアを用いて生産することで,より環境に低負荷なPHA生産が期待できる.また,広島県は全国2位のため池数を有しているが,汚濁の進行による藻類の異常増殖や,広島湾における赤潮の発生対策などへの応用が見込まれる.以上のことから,本研究では,広島県内で採取されたシアノバクテリアを身近な未利用素材と捉えて,PHA生産という新たな事業機会の創出に繋げることはできないかと考えた.また,庄原市は廃校の活用率が低いため,庄原市内の廃校の校舎や屋外プールを活用したり,ため池を利用することで将来的にPHAの産業化が実現できれば,地域の活性化に結び付くものと考えた.【方法】(1)一般的にシアノバクテリアの培養に用いられるBG-11培地を改変したものを使用し,野外の開放型大量培養に向いた特殊な環境で培養可能な株の探索を行った.(2)単離株の収量を増加させるため,培地のpH,N濃度,温度の最適化を行った.(3)シアノバクテリアの16SrRNA遺伝子のV3-V4領域を増幅可能なプライマーセットを用いて,シーケンス解析を実施し微生物種の同定を行った.(4)P(3HB)の生合成を促進させるため,2段階培養を実施後,HPLC分析を行いP(3HB)の含有率を求めた.【結果及び考察】アルカリ条件下でも培養可能な海水産の株を3株,淡水産の株を3株の計6株を取得した.それぞれ広島湾の小黒神島海域由来BをNo.1,ナサビ北海域由来AをNo.2,草津海域由来BをNo.3,世羅町ため池由来BをNo.4,はげら池由来AをNo.5,はげら池由来BをNo.6とした.生育環境についてpH7,10,12で比較した結果,pH10の時にすべての株で最も良く生育した.N濃度はBG-11培地は栄養塩が豊富な培地であったため,N濃度を変えて培養しても生育に大きな変化は見られなかった.温度は20℃,25℃,30℃,35℃で比較した結果,No.1,2は25℃,No.3,4,5,6は30℃の時に最も良く生育した.
文献調査で得られたシーケンス解析用のプライマーCYA359FとCYA781R(b)の組み合わせにより,増幅サイズ446bp付近の増幅産物が得られた.CYA781R(b)はほとんどの単細胞シアノバクテリアに対して特異性が高いことから,単離株No.1~6は単細胞シアノバクテリアであると推定された.
P(3HB)の産生が認められた2株についてHPLC分析による定量結果を以下の表1に示した.シアノバクテリアのモデルとして広く研究されているSynechocystis sp.PCC6803はP欠乏+酢酸塩添加の条件下で28.8%(W/W)のP(3HB)の蓄積が報告されていることから,本研究で取得した分離株は,その1/3程度の産生能を示していた.【結論】生分解性プラスチックの1種であるP(3HB)の産生能を持つ菌株を身近な環境中から探索し,2株のP(3HB)産生菌株を取得した.しかしながら,P(3HB)産生能は既存の報告の1/3程度であったことから,更なる菌株の取得,培養法の最適化や遺伝子組み換えなどの検討を行う必要がある.
図青島
青島スライド

ムカデシバマット苗を用いた畦畔への定植法の検討 生命科学科 濱田夏美(入船・甲村研究室)

【目的】広島県の田耕地面積に占める畦畔の割合は約9.9%であり, 全国平均の約5.9%を大きく上回っている(作物統計調査2021年3月).畦畔法面管理を怠ると, 病害虫や雑草の侵入による生産量の減少や景観悪化に影響を及ぼす.ムカデシバ(Eremochloa ophiuroides)はイネ科の多年性草本植物で, 特定植物の発生を抑制するアレロパシー作用やランナー(匍匐茎)を伸長する特徴があり, 定植後の管理が容易であることから近年話題となっているグランドカバープランツである.
当研究室では, イネ育苗トレーを活用したマット苗法を検討してきた結果, ランナーの誘導による早期被覆やマット苗の活着率のムラが課題となっていた.そこで本研究ではマット苗の活着率の向上を目指すと共に, ランナーの伸長条件を明らかにするために播種量・施肥頻度・定植場所において調査した.【方法】1. 県大フィールド科学教育研究センター圃場にて, 1マット苗当たりの播種量と定植前の施肥頻度におけるランナー発生数を調査(2020年11月).
2. 1. で最もランナーが発生した条件より, 平面地・斜面地・世羅西町畦畔で, 定植時の基肥の有無がランナー発生に影響を及ぼすかを調査(2021年11月).3. マット苗の活着率調査:定植前の培土の有無で対照実験を行った.世羅西町畦畔へ2020年9月に定植したマット苗21枚(培土無し)と, 2021年9月に定植したマット苗21枚(培土有り)の活着率をそれぞれ2か月後に調査.マット苗はすべて同一条件(播種0.4g, 2週間に1回の施肥)に揃えた.
4. 1. で定植したマット苗63枚を対象に,1マット当たりの播種量と施肥頻度における被覆度を調査した.被覆度は, 1マット当たりのランナー総数とランナーの平均の長さ(cm)の積で求めた.
【結果・考察】1. ランナー発生には施肥の有無と回数が影響していることが判明した. 播種0.4g, 2週間に1回の施肥の場合に, 播種1g当たりのランナー発生数が最も多くなった.
2. 平面地・斜面地では, 定植時の基肥の有無がランナー発生に影響していることが判明した.世羅西町畦畔については, ランナーが発生しやすい時期より遅れて定植した可能性があるために, 定植時の基肥の有無で大きな差が見られなかったと考察した.
3. 2020年9月に定植したマット苗(培土無し)の活着率は10%であるのに対し, 2021年9月に定植したマット苗(培土有り)の活着率は100%であった.
4. 播種0.4~0.6gの場合に, 播種1g当たりの被覆度が比較的大きくなる傾向が見られ, 播種0.8gでは明らかに劣っていた.以上,少ない播種量と定植前後の施肥, 早期の定植がランナーの伸長において重要であり, ムカデシバのランナー誘導による早期被覆が, 畦畔の割合が全国的に高い広島県の農場主の畦畔の除草作業の時間,労務量, 労働賃金の削減を促すことが期待できる.
ムカデシバ
ムカデシバ 現地
その1の2つの発表は備北バイオの里づくり推進協議会 2022年3月号(第40号)にも掲載しています。その2の2題は表題のみの掲載となっており、こちらを閲覧してください。