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生命科学科の学生が共同執筆した総説が、月刊 細胞 (特集 細胞内蛋白質の存在状態の新常識 )に掲載されました。

印刷用ページを表示する 2021年8月6日更新
題名: モデル生物を用いた分泌タンパク質の凝集・脱凝集機構の解析
伊原伸治、佐々木ひかる(生命科学科3年)、中寺紗希(生命科学科3年)
月刊 細胞 The cell, Vol. 53 No.9 2021, p63-65

 凝集タンパク質は、遺伝的変異や老化、様々なストレスによってタンパク質が正しい構造を獲得できないときに形成され、凝集タンパク質はタンパク質固有の機能が失われた状態のみならず、凝集タンパク質そのものが細胞にとって有害であることが知られています。伊原研究室では、モデル生物である線虫C. elegansを用いた変異体スクリーニングにより、細胞内に凝集タンパク質が蓄積する多数の変異体を樹立しています。その変異体の解析を行うことで、生体内の恒常性機構の破綻がどのようにしてタンパク質の凝集を引き起こすのか、分子メカニズムの解析を行っています。
2017年には、樹立した変異体の責任遺伝子が、Multiple congenital anomalies-hypotonia-seizures syndrome1 (MCAHS1)と総称される知的障害・運動発達障害を示す遺伝子疾患を引き起こすPIGN遺伝子であることを報告しています。PIGNは糖脂質であるGPIアンカーの生合成に関わる酵素であり、図1に示すエタノールアミンを転移させる酵素活性を保持しています。本総説では、これまでの遺伝学的、生化学的解析によって明らかになったPIGNの新規機能、そして凝集タンパク質を脱凝集させる変異体の特徴などを解説しています。
fig
図1 PIGNは糖脂質であるGPIアンカーのマンノースにエタノールアミンを転移する酵素です
執筆にあたり、佐々木さん、中寺さんは広島県の新型コロナによる緊急事態宣言でキャンパスに登校できない間に何本もの原著論文を読み込んで本総説に必要な知見を学び、担当した箇所の文章を書き上げました。
fig2
左の図は野生型の線虫の咽頭の拡大図です。分泌タンパク質を蛍光タンパク質で可視化しています。白い矢印が凝集タンパク質を示しています。右の図はpign変異体ですが、野生型に比べて、細胞内に多数の凝集タンパク質が形成されます
生命科学科3年の佐々木さん、中寺さんは卒業研究でモデル生物を用いてタンパク質の凝集、脱凝集の研究をさらに進めていきます。

「解説」
月刊「細胞」
ニューサイエンス社 1969年6月に創刊され、最先端の基礎研究と医療との橋渡しをする第一線の研究執筆者による月刊誌です。電子顕微鏡の進歩にともない、脅威的な発展を示す細胞学を背景とし、細胞の形態と機能を電顕的にまた生化学的に探求する学術雑誌です。

線虫C. elegans (Caenorhabditis elegans)
体長は約1mmで非寄生性(自由生活性)の線虫(nematode)の一種です。ショウジョウバエと並ぶ遺伝学の代表的なモデル生物で、2002年、2006年、2008年に線虫研究者がノーベル賞を受賞しています。体長1ミリ程度ですが、動物に必要な最小限の器官をすべてそろえており、細胞数は雌雄同体で959個、雄で1031個です。受精から成虫に至るまでの細胞系譜が完全に解明されている唯一の多細胞生物です。