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【生命環境学科生命科学コース】注目!新任教員インタビュー 金岡雅浩教授

印刷用ページを表示する 2022年10月14日更新

 生物資源科学部生命環境学科生命科学コースに、この10月より金岡雅浩先生を教授としてお迎えいたしました。着任間もないですが、これまでのご経歴やご研究とこれからについてインタビューにこたえていただきました!

金岡雅浩教授

金岡教授

Q ご専門やこれまでの研究について教えてください。

 専門分野は「植物分子遺伝学」です。なかでも植物の受精過程や形態形成に興味をもっています。

 私たちが日常生活で目にする「花」を咲かせる植物の多くは「被子植物」という分類の植物です。雌しべの柱頭に花粉が付着すると、吸水した花粉から花粉管というチューブ状の細胞が発芽し、雌しべの中を伸長します。花粉管は雌しべの中をどんどん伸びていき、胚珠へと向かいます。胚珠の中に入ると花粉管は破裂し、精細胞を放出します。そして精細胞は卵細胞・中央細胞と受精し(重複受精)、果実や種子ができます。写真のように花粉管は胚珠の方へと迷うことなく伸長します。

植物の受精

シロイヌナズナ雌しべのアニリンブルー染色像。花粉管は胚珠(写真中で*で示す)に1本ずつ向かう。

トレニアの花

トレニア・フルニエリ(左)とトレニア・コンカラー(右)の花

トレニアの花粉管

トレニア・コンカラーの花粉管誘引因子TcLURE1(赤色)に誘引されて伸長方向が変化した花粉管。

 また、アメリカのワシントン大学の鳥居啓子先生の研究室でポスドク(博士研究員)をしていたときは、植物の体表面にある「気孔」という通気組織がどのようにしてつくられるのかを研究していました。シロイヌナズナという分子生物学でモデルとしてよく使われる植物を用いて、葉の表面が気孔だらけになってしまうscream-Dという突然変異体で、どの遺伝子にどのような変異が起こっているのかを調べました。その結果、ICE1という名前の転写因子をコードする遺伝子のたった1塩基の違いで、つくられるタンパク質の機能が変化して、気孔だらけの植物になることが分かりました。興味深いことにこの遺伝子は植物が低温に応答するときに働く遺伝子でもありました。この研究より、植物の発生と環境応答との間に深い関係があることが示唆されました。気孔の発生の研究を通じて環境応答にも興味をもち、野外で自生している植物の気孔密度を調査したりもしました。

シロイヌナズナの気孔変異体

シロイヌナズナの野生型植物の葉の表面(左:気孔を緑色に着色)と、表面が気孔だらけになったscream-D変異体(右)。

野外調査

2013年、チューリッヒでの野外調査の様子

Q 研究者になろうと思ったきっかけなどはありますか?

 子供の頃から自宅で様々な生き物を飼っていたこともあり、生物学はもともと好きでした。高校生の頃に生態学やフィールドワークに憧れて、その分野で有名な京都大学理学部に進学しました。

 学生時代はサークルの先輩のつてで屋久島でのサルの調査に参加させていただきました。全国各地から集まった数十人の学生が2週間ほど屋久島の森に入ってヤクシマザルの行動を観察・記録します。京都に戻ってきてから調査隊員の人類学専攻の大学院生の指導によってデータをまとめて報告書を作成します。その過程で「自分のとったデータがどのように活かされ(または残念ながら使えなかったデータは捨てられ)、どのようなことが分かったのか?」の全体像が徐々に見えてきて、研究ってこういう風にしてするんだと勉強になりました。また、私が参加した頃は研究テーマの過渡期で、これまでの結果を基に今後は何を目的として調査を進めるかを、先生や大学院生のかたが何時間もかけて熱く議論していました。そこで研究の立案についても学ぶことができました。この調査での体験が研究職を志したきっかけの1つです。

 また、学部1年生の時に同級生に誘われて自主ゼミ(勉強会)を始めました。そこで切磋琢磨しながら勉強した経験も大きかったです(メンバーのほとんどは博士課程に進学して学位を取得し、今では大学教員・研究所研究員・民間企業役員などとして活躍しています)。大学院修士課程に入った頃からは博士課程の人たちと合同で勉強会を続けました。勉強会の後で飲み屋に移動して閉店まで色々なことを議論するのが毎週の楽しみでした。先輩たちが結果を出して学位を取得し、ポスドクや教員になるのをリアルタイムで見られたことも、研究職を目指す上で大きな影響がありました。

 ちなみに屋久島での調査は現在も毎年夏休みに行われています。興味のある方には紹介できますのでご連絡ください。全国から集まった同年代の人と友達になれて楽しいですよ!調査隊のホームページはこちらからどうぞ。https://yakuzaru.com

屋久島サル調査

2001年屋久島にて、PE群と名付けられた群れのオスザルを観察しているところ(写真提供:半谷吾郎博士)

自主ゼミ

1997年1月、自主ゼミメンバーと京都市動物園を訪問

Q 研究をしていて今まで一番、これはすごいと思った瞬間は?

 研究をしていて、当初の仮説通りの結果が出た時も嬉しいですけど、想像もしなかった結果が出た時には生命の奥深さを垣間見られた気がして一番楽しいですね。実験をやり直しても同じ結果になる、どうやらこれで確からしいとなった時に、ではなぜそうなるのか?と考えて、新しい仮説を思いついてそれを証明するのが研究の醍醐味だと思います。

 1つだけ挙げるのは難しいですけど、雌しべの中で花粉管がどのように伸びているかを顕微鏡で見ていたときに受精に失敗した花粉管が思わぬ挙動をしているのを見つけたときや、気孔の発生に関わる複数の遺伝子の機能を無くした植物を作ったときに、遺伝子の組み合わせによっては予想外の表現型が現れたときは、まず表現型を見つけたときにすごいと思い、そしてその理由を考えることでとてもわくわくしました。

Q 県立広島大学ではどのような研究テーマに取り組みたいと考えておられますか?

 これまでの研究をもとに、植物の受精の仕組みをもっと詳細に明らかにしたいです。上の方で書きましたが、花粉管誘引因子LUREの配列が植物種ごとに違っていて、それで植物は同種の花粉管のみを誘引できると考えられています。例えばトレニア・フルニエリの誘引因子TfLURE1をシロイヌナズナの花粉管の前に置いても、シロイヌナズナの花粉管は反応しません。最近私は、TfLURE1のアミノ酸配列のある部分を少しだけ変えるとシロイヌナズナの花粉管が誘引されるようになることを見つけました。そこで、「誘引因子にどういう配列・構造があれば、特定の種の花粉管を誘引できるのか?」を明らかにすることを目指します。

 LUREが花粉管を誘引できる距離は30µm程度と非常に短い距離です。私はもっと長距離に渡って花粉管を誘引できる別のタンパク質CALL1も発見しています。LUREやCALL1を組み合わせて使ったり、アミノ酸配列を改変することで、花粉管の動きをより厳密に制御できるようになるかもしれません。

今までに花粉管誘引因子が同定されたのはトレニアやシロイヌナズナなどほんの数種の植物だけです。現在は他の植物からも誘引因子を同定しようとしていて、トマトで花粉管誘引の実験系を立ち上げました。トマトで誘引因子が見つかり、トレニアやシロイヌナズナと比較すると、花粉管誘引の仕組みについてさらに詳しく分かると期待されます。そして誘引因子を改変することにより、トマトとシロイヌナズナという進化的に離れた植物の間でも、花粉管を誘引して受精させることができるようになるかもしれません。今後は受精研究で分かったことをもとにして、新しい品種の作出にもチャレンジしたいです。

花粉管長距離誘導

トレニア花粉管の長距離誘引にはCALL1タンパク質が関わっている。

Q まだ来られたばかりですが、庄原や庄原キャンパスの印象はいかがでしょうか?

大学での活動もまだほんの数日ですが、学生さんがとても礼儀正しいのが印象的です。構内ですれ違うときに会釈したり「こんにちは」と挨拶してくれるので、それだけで明るい気分になって「よし、頑張ろう」と思えます。しっかり挨拶できるのはとても良いことですね。職員や教員の皆様も、分からないことを聞きに行くたびに手を止めて対応してくださり、とても助かっています。庄原キャンパスは1学部だけで規模としては大きくないかもしれませんが、みんなの顔が分かる距離感というのはとても良いと感じています。

庄原市は自然が豊かな街ですね。私はバードウォッチングやアウトドア活動が好きなので、落ち着いたら休日にはいろんな場所に出かけてみたいです。

 

金岡教授Researchmap 


 金岡教授は、10月から遺伝学(分担:生命環境学科1年生、地域資源開発学科2年生)、環境応用生物学(分担:生命環境科学科3年生)、来年度から生物学I(生命環境学科1年生)を担当します。それ以外にも学生実験など担当します。

 また、生命科学コースでは、動植物、微生物、細胞などを用いてさまざまな分野の研究が行われていますが、植物分野は、金岡教授と福永教授で、基礎研究から育種(品種改良)などの研究になります。植物の栽培や植物工場などの分野は地域資源開発学科になりますので地域資源開発学科のホームページをご参照ください。なお、教員免許については生命環境学科は理科、地域資源開発学科は農業になっています。金岡教授は、高校の理科の教科書に載っている植物の受精(上記インタビュー記事参照)に関する論文の著者のひとりでもあります。進展が著しい生物学ですが、生命科学コースでは先端的な分野を学ぶことができます。

 

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