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生物資源科学部生命環境学科生命科学コースに、この4月より岡田守弘先生を准教授としてお迎えいたしました。着任間もないですが、これまでのご経歴やご研究とこれからについてインタビューにこたえていただきました!
Q これまでの研究について教えてください。
私は「ストレス応答」に着目して研究してきました。具体的には、ストレスを受けると個体レベルでどのように応答するのかという研究をしています。これまで2つのモデル生物を用いて研究を行ってきました。
1つ目はXenopusと呼ばれるカエルを用いて、オタマジャクシからカエルになる際の「変態」という現象に着目しました。変態は、環境変化のストレスに対して全身の臓器を短期間で作り換える現象です。甲状腺ホルモンというたった1つのホルモンによって厳密に制御されています。私はカエルの甲状腺ホルモンの受容体を初めて同定した矢尾板芳郎博士の指導の元、受容体の発現量を手がかりにして、変態中にどのようにして臓器が順序正しく作り換えられるのかという課題に取り組んでいました。博士号取得後は、アメリカの国立衛生研究所 (通称NIH) でこれまでの変態研究をさらに発展させてきました。
10年ほどカエルを使った研究をしてきましたが、ノックアウトカエルを作製するのに長期間費やすことに疲弊し、自らもノックアウトされかけていた時、短期間で大量の研究成果を産み出す隣のショウジョウバエ研究室が非常に魅力的に映りました。そこで、帰国後はモデル動物をショウジョウバエに変更することにしました。まさに「井の中の蛙ハエを知らず」状態であった私は、理化学研究所においてYoo Sakan博士にハエの遺伝学を一から教えてもらいました。現在は、ハエを用いて、がんが進行した際にどのように全身に悪影響が及ぶのか、そのメカニズムの解明を目指しています。最近、がん細胞が分泌するタンパク質ががんによる全身症状の不調に関わっていることを明らかにしました。
遺伝子ノックアウトカエル
野生型(左)とがんが誘導されたハエの眼(右)
Q どんな学生生活を過ごしてこられましたか?
ご多分に漏れず、私の学生生活も勉学はほどほどにスポーツやバイトに勤しんでいました。中でも地域のクラブチームに所属して卓球に多くの時間を費やしていました。現在、卓球はスピードボールを出すためラバーのスポンジを厚くするのが主流となっています。しかし、私は時代を逆行してスポンジの厚さを特厚から極薄にして、ドライブ全盛期の中スマッシュを多用する謎スタイルで正統派卓球に立ち向かっておりました(本職の研究スタイルも独自スタイルを模索中です)。実は庄原という土地は、学生時代に庄原体育館での卓球の試合に参加し、良い成績を納めて表彰状をもらった縁起の良い場所です。今、大学教員として庄原の地にいるのも何かの縁を感じます。中学生への卓球指導のボランティアや年配者の卓球チーム(土曜日に活動していたのでサタデーという名のチーム)のコーチなどを行うことで、様々な年代の地域の方々と交流できたのはかけがえのない経験です。卓球もいつか再開したいなと思っております。
肝心の学業(研究)の話に戻ります。私は、子供の頃に野口英世に憧れて漠然と研究者になって社会に貢献したいと思っていました。ただ、常に卓球ボールを追いかけていたため、完全に初心を忘れている大学生でありました。偶然テレビを見ていたら、後に指導教官となる吉里勝利博士が出演されていて、何やら壮大な夢を語っておられ、そのカリスマ性に惹かれて研究室に入ったのが研究人生の始まりです。大学院では、非常に個性の強い先生や学生に囲まれ刺激に満ち溢れていました。特に、矢尾板研究室と進化発生学の安井金也博士との週1回の合同セミナーによって大いに鍛えて頂きました。毎回、2人の教授が3時間以上も喧嘩ですかと思うほど激しく議論をされていました。しかし、お腹が空くと教授からの「食堂行きますか?」というホイッスルで激論は終了し、ノーサイドで仲良くランチに向かう姿を見て「これがサイエンスか」と若かった私は妙に感心していました。大学院の最終年度にはアメリカの学会に1人で発表させていただく機会を得ましたが、力不足を大いに認識したため、博士号取得後は海外にいくことを強く意識するようになりました。
Q 海外での研究生活はどうでしたか?
首都ワシントンDCに近い研究所(NIH)に在籍していました。巨大な研究所でしたのでいつもどこかでセミナーがあり、ノーベル賞受賞者や有名人(オバマ大統領、ビル・ゲイツ氏など)の話が聞けたのは大いに刺激になりました。アメリカに到着して1番英語が出来ない時期にアパートを回って部屋の契約交渉をしたのは、今思うとよくできたなと思います。また研究室は1階建の古い建物にありましたが、週末に実験に行くと天井から私のデスクに向かって大量の水が流れ落ち、キーボードが浸水していたのは衝撃でした。しかし、同じ建物でEric Betzig博士が行った研究がノーベル賞の受賞に繋がったという話があったため、天井からデスクへの滝を見ながらこれも大発見のための試練だと思ったこともありました。大発見はできませんでしたが、自由に研究をやらせてもらい、研究室主宰者と毎朝コーヒーを作りながら、いわゆるサシで様々な話ができたのは貴重な財産となっています。日本という国や文化を外から見て、日本人としての誇りや改善すべき点を見直す経験は重要です。学生の皆さんには短期でも良いので、言葉が通じない世界や異文化を体験してもらいたいです。その苦労が自信に変わり、異文化の理解が新たな価値観を生み出すと思います。
水漏れ後の応急処置
研究室の同僚らとの写真
Q 庄原キャンパスには最近来られましたが、どのような研究をしたいですか?
まずは、研究室のセットアップを頑張ります。
研究の目標は、がんが引き起こす全身的な身体の異常である「がん悪液質」と呼ばれる病気の治療法に繋がる発見をすることです。小さなハエが教えてくれるがん悪液質治療のための大きな手がかりを庄原で探していきたいです。また、広島には世界の四大両生類リソースの拠点の1つがあります。地の利を生かしてカエル研究も近いうちに再開したいですね。庄原キャンパスには、さまざまな分野の先生方がいるので、共同研究などを通して、私の研究テーマがこれからどのように「変態」していくのか、とても楽しみです。
県立広島大学・岡田研究室のメンバーとともに
Q 高校生や在学生へのメッセージをお願いします。
今を大切に、今を一生懸命生きて下さい。くれぐれも「初心」と「感謝」を忘れずに。
岡田先生の昨年出た研究成果は、「進行がんの全身悪化に関わるタンパク質を発見 理研、生存率やQOL改善に期待」という記事で紹介されています。是非ご一読を!
岡田准教授は、免疫学(生命環境学科2年生、第3クオーター)、細胞生物学(生命環境科学科2年生、第4クオーター)を担当します。それ以外には学生実験などを担当します。
また、生命科学コースでは、動植物、微生物、細胞などを用いてさまざまな分野の研究が行われています。進展が著しい生物学ですが、生命科学コースでは先端的な分野を学ぶことができます。