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【生命システム科学専攻】博士課程後期2年の中西寛弥さんが日本畜産学会第129回大会で優秀発表賞を受賞しました。

印刷用ページを表示する 2021年10月4日更新

生命システム科学専攻博士課程後期2年の中西寛弥さんさんが,

2021年9月13-16日に開催された日本畜産学会第129回大会で優秀発表賞を受賞しました。

【発表題目】

「FSHが誘導するコルチゾール代謝亢進による卵胞選抜メカニズムの解明」

 

【受賞者の所属】

大学院総合学術研究化生命システム科学専攻博士課程後期2年次

動物生殖生理学研究室

指導教員 山下泰尚 准教授(生物資源科学部・生命環境学科(生命科学コース))

 

[解説]

哺乳動物では,性成熟を迎えると,脳下垂体から放出されるFSHにより卵胞発育が誘導され,その後放出されるLHにより成熟卵が排卵されます。FSHは卵子を含む卵胞の顆粒膜細胞に作用すると,ヒトであれば十数個の卵胞が一斉に卵胞発育を誘導しますが,最終的に排卵されるのは1個の選ばれた優勢卵胞のみで,その残りは排卵に至らず,途中で退行します(卵胞退行)。優勢卵胞選抜と卵胞退行が起こるのは知られていますが,優勢卵胞がなぜ選ばれるのか?退行卵胞がどのようなメカニズムでアポトーシスするのか?について不明です。

  これまでの研究により,優勢卵胞の卵胞表面には血管が多く形成され,退行卵胞には血管が少ないことが知られていました。そこで当研究室では,卵胞選抜が起きるメカニズムを解明するために,血管がある卵胞をVascularized Follicle (VF),血管がない卵胞をNon-VF (NVF)と分類し,これらの卵胞液におけるステロイドホルモン性状の違いを明らかにしました。この結果,VFでは,エストロゲンが高濃度存在していたのに対し,NVFでは,エストロゲン前駆体であるプロゲステロンがVFと同程度存在していたのにも関わらず,エストロゲンがほとんど含まれていませんでした (Okamoto et al., Biology of Reproduction, 2016)。このことから,NVFでは,プロゲステロンがコルチゾールに代謝されていると仮説立て (図1),その検証を行いました。

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 その結果,NVFの顆粒層細胞では,プロゲステロンからコルチゾールに変換する酵素の発現が高く,コルチゾールが卵胞液中に蓄積することがわかりました。その一方で,VFでは,エストロゲン産生酵素群およびコルチゾールからコルチゾール活性がないコルチゾンに代謝するHSD11B2が高発現することがわかりました。さらに,VF由来の顆粒層細胞にコルチゾールを添加するとアポトーシスが誘導されること,その一方で,コルチゾールとFSHを添加し培養すると,Hsd11b2の遺伝子発現が上昇し,アポトーシスが抑制されることを初めて明らかにしました(図2)。

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  以上の結果から,血管が形成されないNVFでは,プロゲステロンからコルチゾールが産生され,コルチゾールが卵胞液中に蓄積することで,顆粒層細胞のアポトーシスを誘導する結果,卵胞の退行および消失を促すと考えられました。その一方で,血管が形成されたVFでは,血管由来のFSH刺激により,顆粒層細胞においてHSD11B2が発現し,有害なコルチゾールから無害なコルチゾンに代謝することで,正常な卵胞発育および排卵に至ると考えられました。

 本研究は,血管が十分に発達していないNVFではFSHが作用できず,その結果コルチゾールが蓄積し退行卵胞が生じること,VFでは血管によりもたらされるFSHがコルチゾールの代謝を促し,優勢卵胞となるメカニズムを初めて明らかにした研究です。第129回日本畜産学会では,この基礎的知見に加え,家畜増産効率の向上や優良家畜増産の効率化が期待できる点が高く評価され,優秀発表賞を受賞しました。

動物生殖生理学研究室 准教授 山下泰尚