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【生命科学コース】穀物の脱粒性に関わる遺伝子の論文が国際誌に掲載(福永教授)

印刷用ページを表示する 2021年3月17日更新
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福永教授の論文が、国際誌・Genetic Resources and Crop Evolution (Springer)にOnlineで掲載されました。

Fukunaga, K; S. Matsuyama; A. Abe; M. Kobayashi; K. Ito

Insertion of a transposable element in Less Shattering1 (SvLes1) gene is not always involved in foxtail millet domestication 

Less Shattering1 (SvLes1)遺伝子へのトランスポゾン挿入は必ずしも雑穀アワの栽培化に関係していない)

​Genetic Resources and Crop Evolution DOI :https://doi.org/10.1007/s10722-021-01165-w

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【解説】われわれは、炭水化物の多くを、イネ、コムギ、トウモロコシなどの穀物から摂取しています。われわれが栽培している穀物は自然にそのままで生えているわけではなく元々は野生の植物でした。道端のイネ科植物は、花が咲き終わると実がつき自然に種子が落ちておきます。このような性質を脱粒性といいます。かたや穀物は実っても種子が落ちません。このような性質を非脱粒性と言います(図1参照)。元々の野生種は自力で種子を広げるのに対し、栽培種は人間が収穫しやすいように種子が落ちないように遺伝的に変化しています。これ以外にも利用する部分が大きくなる、種子の休眠性がなくなるなどの野生種から栽培種への遺伝的な変化を栽培化(domestication)と言います。このような変化は、イネ科植物を集めて食べていた狩猟採集社会から、種子を播き栽培し収穫するという農耕社会への変化をもたらした原動力になったものとも言えます。

 この数十年で、遺伝学やゲノム科学は飛躍的に進歩しました。上に述べたような、脱粒性、非脱粒性の原因遺伝子の正体(DNAレベルでの違い)がさまざまな穀物で明かされてきています。

   アワとその祖先野生種のエノコログサはモデル植物(*1)として近年、研究が進んでおり、アメリカのグループによりエノコログサからアワへの栽培化に大きく寄与している脱粒性遺伝子が発見されました(Mamidi et al. 2020)。これによるとSvLes1遺伝子という遺伝子へのトランスポゾン(*2)の挿入が、脱粒性の喪失に大きく寄与することが明らかになりました。

 福永教授と福永研究室4年生の松山さんは、世界中のアワ在来品種131品種についてこの遺伝子へのトランスポゾン挿入の有無を調べ、トランスポゾン挿入がないものについては遺伝子の配列がどのようになっているのか調査しました。また、いくつかの品種については、共同研究者により岩手生物工学研究センターにおいて新たな次世代シークエンシンサー(NGS)(*3)のひとつである、ナノポアシークエンサー(*4)によって全ゲノムが解読され本研究に用いてられています。この結果、トランスポゾン挿入がないものもあり、エノコログサと同じ対立遺伝子をもつものがあることが明らかとなりました。これらの地理的な分布パターンも明らかとなりました。おそらくはこれらの品種は他の遺伝子の働きにより脱粒性が失われていることが示唆されました。また、エノコログサと過去に交雑が起こっているのではないかということも示唆されました。現在、ゲノム全体で何が起こっているのかNGSを用いてゲノムワイドな解析を進めているところです。

 本研究は、松山さんの卒業論文の一部をなしています。このように、庄原キャンパス生命環境学科生命科学コース(旧・生命環境学部生命科学科)では学部学生でも所属研究室と先端的な研究チームとの共同研究に加わって、基礎的なことを学び議論を重ねながら、実際に手を動かし成果をだしています。理系の研究室ならではのアクティブラーニングと言えるでしょう。コロナ禍の中、感染防止に気を配りながら研究を進め成果を出しました。研究室の様子は過去の記事を参照してください。

 また、本研究は、科学研究費・ 基盤研究C「遺伝資源保全のための,ゲノム情報を用いたアワ在来品種・実験系統の多様性解析」(代表・福永健二)によるものであり、その一つ目の成果として世に出ました。本成果は2021年3月に開催の第139回日本育種学会でも発表されます。

 

 われわれ人類を支えてきた作物の在来品種は文化財ともいえるものであり、その系譜を探ることはわれわれ自身の歴史を探ることでもあります。また、我々人類がかつて盛んに利用していた雑穀類の遺伝資源を解析することにより、乾燥化などの予測不可能な未来に備えた品種改良への知見を得ることを研究の大きなビジョンとしてかかげています。

 このように庄原キャンパスでは、他ではそれほど行われていないユニークな実験材料を用いて研究が行われています。詳しくは、「生命科学科いきもの発見!」を参照してください。

 

*1 生物学(特に分子生物学)及びその周辺分野において、普遍的な生命現象の研究に用いられる生物をさします。飼育・栽培が容易であることや一世代が短いこと、ゲノムサイズ(遺伝情報量)が少ないことが望ましいです。例としては大腸菌やセンチュウ、酵母、ショウジョウバエ、マウスなどがあげられます。モデル植物としては、シロイヌナズナ、イネ、ミヤコグサ、ミナトカモジグサなどが代表的なものですが、これにエノコログサも加わりました。

*2 ゲノム(ある生物が細胞にもつDNA全体)上の位置を転移することのできる塩基配列です。動く遺伝子や転移因子とも呼ばれます。突然変異の原因となり生物の進化を引き起こす要因のひとつです。

*3 遺伝子の塩基配列決定はこれまで、サンガー法という方法で行われるのが主流でしたが、それとは異なる原理で高速に遺伝子の塩基配列を決定することが可能になりました。次世代シークエンサーあるいは高速シークンサーと呼ばれています。これにより、ヒトひとりのゲノム解読なども安価で高速で可能になりました。詳しくはメーカーによる解説などを参照してください。

*4  Oxford Nanopore Technologies により開発された塩基配列決定のための器具です。タンパク質できたナノポア(きわめて小さな穴)に電流を通すことによりDNAの配列を大量に高速で解読する最新の技術です。USBのようなものをPCにつないで解読ができます。詳しくはOxford Nanopore Technologiesを参照してください。

 

図1

図1 さまざまな穀類の栽培化(ドメスティケーション)

エノコログサとアワ、トウモロコシとその野生種テオシント、マカロニコムギと野生のコムギ

形態も変化しているが栽培化により脱粒性が失われている。

関連する福永教授の日本語総説

・アワの起源と作物進化 雑草ネコジャラシはどのようにして雑穀アワになったのか? 化学と生物55(2) 98-104 2017年 (アワの起源や作物進化についての総説)

モデル植物となったエノコログサーその雑草生物学への適用(総説) 雑草研究 65 (4) 140 - 149, 2020年(2020年2月8日の記事参照)

・モチ性穀類の起源 モチの文化誌とモチの遺伝子 育種学研究21: 1-10, 2019年 (穀物のモチ性について。人為選択により機能が失われるWx遺伝子の進化についての総説; 2019年1月の記事参照

・トウモロコシの起源-テオシント説と栽培化に関わる遺伝子 国立民族学博物館調査報告84 137-151 2009年 (作物の栽培化(domestication) についての総説)

 

分担執筆図書

・『雑穀の自然史-その起源と文化をもとめて』(山口・河瀬編) 北海道大学図書刊行会    

 2003年

・『地球の処方箋―環境問題の根源に迫る』(総合地球環境学研究所編)昭和堂 2008年

分担翻訳図書

・『農耕起源の人類史』 P. ベルウッド (佐藤・長田監訳) (P. Bellwood, First Farmers: The Origins of Agricultural Societies, 2005) 京都大学学術出版会 2008年

など

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