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【生命科学コース】教員ロングインタビュー3・山下准教授

印刷用ページを表示する 2023年6月16日更新

 生命科学コースでは、大学Web上で講義、学生のさまざまな活動や卒業生の声を連載形式で紹介しています。本年度は、昨年の新任教員インタビュー(金岡教授)に続き、教員の研究活動やこれまでの歩みについてインタビュー形式の連載としてお届けすることにしました。初回の福永教授細胞機能制御学研究室の齋藤教授に続き、今回は、動物生殖生理学研究室の山下准教授です。 

山下泰尚 准教授(動物生殖生理学研究室)

山下准教授

動物生殖生理学研究室(3号館6F,3603室)

担当講義科目:生理学,発生・生殖科学,畜産学概論,分子生理学(大学院)など

Q ご専門や研究内容について教えてください。

 現代の日本では,昨年度不妊症を対象とした治療が保険適応となったのをみればわかりますが,男女ともに晩婚化を背景とした不妊治療の重要性が増しています。不妊症の原因は様々ですが,女性側の要因が41%と割合は一番高く,次いで男性側の要因が24%,男女共通の要因の24%の順になっていて,女性に起因する不妊症が多くの割合を占めています。このことから,私たちの研究室では,特に女に起因する不妊症の原因を追究し,予防法や治療法を開発することを目的として研究を行っています。

不妊症の男女比

  女性の卵巣では,卵胞発育と排卵を繰り返しています。もしも排卵された卵子が,精子と受精し妊娠すると,この周期は産子が得られるまでストップしますが,受精が起こらなかった場合は,またこの周期が繰り返されることになります。この卵胞発育と排卵の繰り返しを性周期と言って,ヒトでは28日周期,ウシやブタでは21日周期で卵巣で生じます。卵巣には,未成熟な卵子を含んだ卵胞という袋がたくさんあって,これが風船のように膨らんで成長し,破裂して成熟した卵子(受精し発生することが可能な卵子)が卵巣から卵管に飛び出して,卵管で精子と受精します。この未成熟卵子が成熟卵子へと変化するために必要な現象である「風船が膨らんで成長して,破裂する」ということがどのような因子により生じるのかについてはよく分かっていない部分が多い分野です。

 卵巣にある卵胞が膨らむことを「卵胞発育」,破裂することを「排卵」といいます。この卵胞発育と排卵は先ほど言った通り21日周期で起こるのですが,これらには脳からの指令により生じます。高校生の生物の教科書でも書かれていることですが,この脳からの指令は下垂体前葉から出ていて,これには2つのホルモンが関与しています。FSH(卵胞刺激ホルモン)は,卵胞発育が進行し,LH(黄体形成ホルモン)に従って排卵が生じさせるホルモンです。FSHは,卵胞に作用して卵胞にある顆粒膜細胞という細胞を刺激する結果,卵胞発育という生理現象が生じ,発育した卵胞にLHがさらに作用することにより排卵という生理現象が生じます。生物の教科書には,ある刺激が入ると核でDNAを鋳型にメッセンジャーRNA(mRNA)が作られて,これがリボゾームまで運ばれてタンパク質に翻訳されること,この結果生理的変化が生じることが記載されていますが,このFSHにより誘導される卵胞発育とLHにより誘導される排卵も同様です。

 私たちの研究室では,この卵胞発育と排卵を誘導するFSHとLHの刺激により卵胞でどのような遺伝子が発現し機能するのかについて調べ,卵胞発育と排卵のメカニズムを明らかにしたいと思って研究を進めています。

Q 卵胞発育と排卵のメカニズムがわかると,どのようなことに役立つのでしょうか?

  先ほど述べましたが,不妊症の原因には女性側の要因がいちばん大きい割合を占めています。その内訳を見ると,卵胞発育や排卵という現象が生じない卵巣に原因がある「排卵障害」の割合がいちばん高く40%を占めています。これ以外には卵管でなんらかの原因で受精や胚発生が起こらない卵管因子が30%,子宮で胚の着床が起こらなかったり,着床しても胚が生育しない子宮因子15%と続きます。このことは,不妊症を引き起こしている原因の多くは卵巣になんらかの障害が生じていることを示しています。このような卵巣における障害は「正常」であるものが「正常でなくなった」状態になったことから生じていると言えることから,まずは「正常」とはどういう状態なのかを知る必要があります。このため,卵胞発育と排卵のメカニズムを正しく知る必要があるのです。また,「正常でなくなった」、つまり排卵障害による不妊症となった患者の原因は様々である可能性が高いですが,この卵胞発育と排卵のメカニズムの全容がわかると患者に合わせて病因となるターゲットを絞ったオーダーメイドの治療を行うことが可能となると考えられます。このことから,より効率的に,的確に治療を行うためにも,まずは卵胞発育と排卵のメカニズムを明らかにするというのはとても重要なことなのです。

不妊症原因

Q 研究者になろうと思ったきっかけはなんですか?

 私が研究者になろうと思ったきっかけは,今思えば小さい頃から動物が好きだったというのが大きいです。私の育ったのは宮崎県えびの市というところで,生物資源科学部がある庄原市よりももっと人口の少ない街で育ちました。宮崎県は農業が盛んで(その分田舎ということですが),特に私の育った地域は,肉牛を飼っている農家がとても多い地域でした。後に大学で畜産学の講義を受けて知ることになるのですが,私の育ったえびの市は子牛を生産して,それを出荷する繁殖農家が多いことを知りました。私の親戚の家もそうですが農家の多くは軒先で牛を10頭程度飼育し,獣医さんが人工授精を行い,その子牛を出荷するというのがいつもの光景でした。このような中で育ったので,小さい頃は生物に関係する仕事がしたいと朧げながら思っていました。ただ,この頃は,研究者になりたいというよりは,獣医さんみたいに生物に関わることが仕事にできたらなあ,という程度だったのです。ですが,高校に進学した頃に研究者になりたいと思った決定的なことが起こりました。それがイギリスのロスリン研究所でのイアム・ウィルムットらによる世界で初めのクローン羊のドリーの誕生です。このドリーは,分化した細胞から取り出した核を除核した受精卵に移植することによって誕生させたクローン羊なのですが,全く同一遺伝子を持つ動物を作り出すことができるということにとても興奮し,動物の生殖学のある大学で研究してみたいと思い進学しました。大学一年生の頃から家畜生殖学研究室に入りたかったので,一年生の頃の一般教養の講義は正直面白くなかったのです笑。しかし,2年生でコース分属(動物生産コースに分属)され専門の講義が少しずつ増えて,3年生でさらに動物に関する講義と実習(国内実習と海外実習)のシャワーを浴びて,その後希望通り4年生で家畜生殖学研究室に配属されることになりました。私が研究室に配属されるちょっと前までは,他国にクローン技術に遅れをとるなと,国からも多くの支援が入り多くの大学で研究を行っていました。しかし私が研究室に配属される頃にはドリーができて5年程度経っていたので,研究室配属される頃にはクローン研究は下火になっていたのです。なぜかというと,クローンなどの技術的な研究は,クローン動物ができてしまうとその後は動物の作成効率を如何に増加させるかに研究の焦点が絞られて,あまり魅力的な分野でなくなったからです。そのため,配属された家畜生殖学研究室ではすでにクローン研究は行なっておらず,1年生の頃、勉強を頑張って,せっかく家畜生殖学研究室に入ることができたのに,希望していたクローン研究とは異なる研究をしないといけなくなったのです。失意の中,私の師匠に当たる先生が行っていた,動物生理に基づいた生殖学の研究と卵子の体外成熟培養への応用に関する研究について触れ,その研究の一つをお手伝いするのが私の卒論テーマとなったのですが,これが転機になりました。この卒業研究を通じて,生物の生殖学の奥深さを知り,同時に研究の楽しさを教えてもらいました。このため,この研究を一生を通じてやりたいと思い,そのまま博士課程前期,博士課程後期に進みました。

Q 研究を通じて嬉しかったことはなんですか?

 研究一つ一つ,全てがとても面白いです。確かにめんどくさかったり,研究によっては夜中のサンプリングがあったりとしんどいこともありますが,それ以上に研究を通じて得られる喜びは大きいです。例えば顕微鏡を通じて観ている現象はその研究に携わった人が世界で初めてみている現象ですので,自分で立てた仮説は本当だった場合にはとても興奮しました。研究を学会等でドキドキしながらプレゼンテーションするのも緊張しましたが良い思い出です。学会で全国に行けるようになると,夜にその土地の美味しいものを先生方に奢ってもらったり,他大学の研究室の学生と一緒に食事をして楽しい時間を過ごして友達や知り合いの先生が増えていくことも嬉しかったです。また,結果をまとめて,英語で論文を書いて,それが雑誌に載った時の感動は今でも忘れません。また自分の卒論テーマを頂いたのちに,その周辺情報を集めようと論文を読んでいくと,いつも同じ人が論文に入っていて,その人が自分のヒーローみたいになっていくのですが,国際学会に参加したときにそのヒーローが質問してくれたこともとても嬉しかったですね。また短期留学で私の分野の権威の先生とマンツーマンでディスカッションした時は緊張もしましたが,話が通じた時、Goodって言ってもらえたのも嬉しかったです。さっきも言いましたが,研究自体はとても地味で,結果の出ない時間はとても苦しいですが,嬉しいことの方が思い出に残っています。

 また,博士課程後期の学生には国が研究を支援してくれる日本学術振興会特別研究員という制度があります。この制度は,研究を頑張っている博士課程後期の学生に給料と研究費を支給するというもので,採択されるのは難しいのですが,これを博士課程後期の1年生から採択されたのはとても嬉しかったです。給料は生活するには十分すぎるぐらいもらえるので,両親の負担が減るという意味で初めて親孝行できた気がしました。県立広島大学に赴任してきてこれまで私の研究室でも2人の博士課程後期の大学院生がこの日本学術振興会特別研究員に採択された実績があります。これも私の研究が認められた気がして嬉しかったです。興味ある人は,ぜひ話だけでも聞きに私の研究室を覗きに来てください。

国際学会
記念撮影

Q 趣味などはありますか?

   趣味は釣りです。実は大学の時に釣りサークルを仲間と立ち上げて,今でもその活動は続いています(今年も全国にいるメンバーが集まります)。昔は,湖なんかで行うバスフィッシングをやっていましたが,現在はミニボートで魚釣りを楽しんでいます。例年ですと,週末釣りに行き,たくさん取れた時には研究室の学生に振る舞っています。料理も趣味なので,真鯛のお刺身,煮付け,カマの塩焼き,酒蒸し,潮汁なんかを持って行きますが,みなさん美味しいと言ってくれます。最近は釣りにあまり行けていませんが,たくさん釣れた時には研究室に持ってきて,学生にお裾分けしています。気を使っているのかもしれませんが,美味しいと言ってくれています笑

 瀬戸内海にボートを出すことが多いのですが,島の緑と海の青のコントラストの中釣りをするのはとても贅沢で癒されます。

 またミニボート仲間と集まってキャンプしたりするのも楽しいですね。

釣り

Q 高校生や在学生へメッセージをお願いします。

 生命科学コースは,動物だけでなく,微生物,細胞,植物など多くの分野があり,とても興味深い研究を行っている研究室ばかりです。講義もそうですし,実験のときにいろんな先生や先輩と話をして,興味ある分野があれば積極的に足を運んでみてください。教員の皆さんは歓迎してくれると思いますよ。

  高校生の皆さんは,ここを読んでくれているということはHPには来ているということなので,是非他にどんな分野があってどんな研究をしているのかを見てみてください。そして興味があれば,是非受験をご検討ください。

生命科学コースにおける研究内容について