―大学院生から,高校生の皆さんへ-
八木研究室では緑藻クラミドモナスを使って鞭毛運動の研究をしています。鞭毛は真核生物が持つ細胞運動器官です。読んで字のごとく鞭(ムチ)のようにしなる運動をします。面白いことに,クラミドモナスのような単細胞生物から私たちヒトの精子に至るまで、鞭毛がもつ基本構造は広く保存されています。
クラミドモナス(図1)は2本の鞭毛を平泳ぎさせるようにして動かし,その様子は見ていて非常にけなげでかわいらしいものです。例年,オープンキャンパスで顕微鏡越しにその姿を観察していただいています。次回はご参加いただき,是非とも皆さんにもかわいいクラミドモナスが懸命に泳ぐ姿を見てもらいたいです(以下のホームページの動画もご参照ください)。
図1 緑藻クラミドモナス
さて、そんなクラミドモナスの鞭毛をかわいそうですが切って、その断面を観察してみます。鞭毛の断面は 0.0002 mm程度しかありません。そのため,光を使った普通の顕微鏡では見えません。ですが,電子顕微鏡を使えば内部の細かい構造がよく見えます(図2)。8の字型の構造や完全な円状の構造に見えるのが微小管です。鞭毛断面には,9本の8の字型微小管が真ん中の2本の微小管を取り囲む,「9+2 」と呼ばれる構造があるのがわかります。この構造は500種類を超える部品タンパク質から構成されていて、それぞれのタンパク質が互いに協力して働くことでクラミドモナスの平泳ぎを可能にしています。1つのタンパク質がなくなるだけで鞭毛が全く動かなくなることも珍しくないことから、鞭毛はたくさんのタンパク質から構成される精密機械であるとも言えそうです。
図2 9+2 構造
皆さんはこの構造を見たときにどんな印象を持ちましたか? 私は初めてこの構造を見たときに驚くと同時に「生命はなんて美しいのか!」と感銘を受けました。現在、大学院の博士課程まで進学して研究を続けている私ですが、当初抱いたこの思いは薄れることは無く、むしろ知識を得れば得るほどにその思いは強くなり、少し大げさかもしれませんが、我々が住む世界の成り立ち自体が美しいと考えるに至りました。
研究者と呼ばれる人種は多かれ少なかれこのような「自然の美しさ」に魅せられて、真理の探究をめざしているのではないでしょうか。そして真理の一端に触れることが叶った人はそれを様々なメディアに残すことで後世に託しています。幸いなことに,私たちは先人が膨大な時間を費やして解き明かした真理を文字などを通して学ぶことができます。万有引力を発見したアイザック・ニュートンはこれを「知の巨人の肩に立つ」と表現しています。知の巨人の肩に立ち、美しい真理を自ら探究することができる研究という行為は人類に許された至上の贅沢なのではないでしょうか。
しかし、研究は一人で行うことはとても困難です。例えるならば,大海を羅針盤なしに航海するようなものでしょう。私は,研究室は羅針盤に相当するものと考えています。研究室の指導教官はその道のプロであり、あなたの研究(航海)を正しい方向に導いてくれます。また,研究室の同僚も大事です。彼らとの何気ない会話から思わぬアイディアが浮かぶこともあります。その考えからいくと,八木研究室(図3)は,鞭毛運動の謎という生命科学の重要課題の解明とその先に続く真理の探究のために,優れた羅針盤になると思います。この文を読んでクラミドモナスに興味が湧いた、鞭毛構造の精密さに驚いた方は八木研究室で共に知の巨人の肩に立ち、鞭毛運動の謎の解明へと漕ぎ出すワクワク感に満ちた航海に挑んでみませんか?
図3. 八木研究室の様子 (左)外国人訪問研究者と宮島へ (右)研究室の日常
八木研究室の詳しい内容はこちらです。